「人生100年」時代に考える、高齢期の住まいについて

「人生100年時代」がやってきます。100年時代を豊かに生きるためには? なんて言われてますね。

厚生労働省が発表した最新の簡易生命表を見ると、男性の平均寿命は約81歳、女性は約87歳。戦前の日本では平均寿命が50歳に届いていなかったことを考えると、この70〜80年でずいぶん変わったものです。

ということは、気になるのが「65歳=もう人生の終盤」という感覚は、今の実態とはズレてきているということ。65歳から先も、平均すればまだ20年前後の暮らしが続くわけです。つまり65歳からもう一つの生活が始まるタイミングだと考えたほうが、いまの実感に近いかもしれません。

そう考えると、住まいの選び方も変わってきます。「今後5年をどう過ごすか」ではなく、「80代、90代までどう住み続けるか」という視点も必要になってきます。

今日は、その視点から高齢期の「賃貸」と「持ち家」について考えてみたいと思います。

 

「高齢者は賃貸を借りにくい」は、実はかなり裏付けがある

まずよく言われるのが、高齢期の入居審査が厳しい点について。

国土交通省の調査では、賃貸オーナーの約7割が高齢者の入居に拒否感を持っているという結果が出ています。理由として最も多かったのが「居室内での死亡事故等に対する不安」で、9割以上を占めています(調査対象は日本賃貸住宅管理協会の会員団体)。

内閣府の調査でも、実際に賃貸への入居を断られた経験を持つ高齢者のうち、理由として「高齢のため」を挙げた人が6割を超えています。

とはいえ高齢者だからといって部屋が借りられないわけではありません。 ただ、若いときと同じ条件で次の住まいを自由に選べる、とは限らない点はおさえておく必要があります。

 

「立退きは正当事由がないとできないから大丈夫」だけでは終わらない話

普通借家契約では、貸主が更新を拒んだり解約したりするには「正当事由」が必要です。ですから「賃貸は大家の都合でいつでも追い出される」というのは、法律上は正確ではない。

ただ、法律上守られていることと、実際にその場所に住み続けられるかどうかは別の話です。

建替えや老朽化、大規模修繕、オーナー側の事情などで立退きを求められた場合、実務では立退料などお金で解決に至るケースが多い。それに、周囲の住民が次々と退去していくなかで自分だけが交渉を続けるというのは、精神的な負担も小さくありません。これは年齢が上がれば上がるほど重くなる話…。

つまり法律で守られているからといって、その権利を実際に行使し続けられるかどうかは、また別の体力・気力が要るということです。

 

賃貸の本質は「入居者が入れ替わる」が前提

近隣のトラブルや騒音、ゴミ屋敷などの問題は、賃貸だけではなく持ち家の場合でも起こり得ます。ただ賃貸住宅は、自分の意思とは関係なく隣人が次々と変わっていく、という点では本質的な違いがあります。住環境の継続性が、所有者自身によって担保されているわけではないということ。賃貸ではそれが常態としてあります。

もし単身の高齢者がそのようなトラブルに見舞われた場合の精神的な負担というのは、計り知れない。「嫌になったら引っ越せばいい」というわけにはいかないのです。

 

高齢期に価値が変わる「柔軟性」と「安定性」

高齢期になると、住まいに求める価値が、すぐに引っ越せるという「柔軟性」から「住み続けられる確実性」に変わります。家賃さえ払えば住み続けられる、という単純なものではなく、年齢・健康状態・保証人・収入・貸主の意向など、自分以外の要素に左右されていきます。

一方で、持ち家の場合は「最期までここに住み続ける」という意思決定を自分でできます。もちろん修繕費や固定資産税、維持管理の問題もあるので「持ち家なら安心」と単純化できるわけではありません。

つまりこれは、「賃貸か持ち家か、どちらが得か」という損得の話というより、「高齢期の住まいを、誰がコントロールできるか」という話に近いのだと思います。

持ち家は「住宅を確保するリスク」を減らす代わりに「住宅を維持するリスク」を負う。賃貸はその逆、というイメージです。

 

国自身が、「市場任せでは足りない」と考えている

面白いのは、国もこの問題を政策課題として認識しているという点です。

2025年10月、住宅セーフティネット法が改正されました。単身高齢者の孤独死や残置物、家賃滞納、近隣トラブルへの大家側の不安を背景に、居住サポート住宅などの制度が導入されています。ほかにも家賃債務保証や見守りサービス、居住支援法人といった仕組みが整備されてきました。

これは裏を返せば、「通常の民間賃貸市場だけでは、高齢者の居住の安定を十分に確保しきれないケースがある」と、国自身が認めているということでもあります。「高齢者が賃貸に住むこと自体が危険」という話ではなく、「市場任せにすると、こぼれ落ちる人が出る」という認識です。

 

日本の高齢世帯は、すでに持ち家が主流

2023年の総務省「住宅・土地統計調査」によると、高齢者のいる世帯のうち約81.6%が持ち家に住んでいます。高齢夫婦のみの世帯では約87.6%、高齢単身世帯でも約67.5%が持ち家です。

日本社会は、すでにかなりの程度「高齢期を持ち家で迎える」という構造になっているわけですね。だからこそ、これから単身高齢者が増えていく中で、「持ち家を手放して賃貸に移ることは、本当に合理的なのか?」という問いが重みを増してきます。資産を手放して身軽になる代わりに、将来の住まいの確保を市場に委ねることになる、というトレードオフです。

 

とはいえ、「持ち家なら安心」でもない

ここまで持ち家の側に有利な話を重ねてきましたが、持ち家であればそれで安心、というわけでもありません。

最近は金利上昇や住宅価格の高騰を背景に、20代以下の持ち家率が過去最高を更新しているというニュースも出ています。「このまま値上がりが続けば一生買えなくなるのではないか」という焦りから、ペアローンや50年といった超長期ローンを組んで、早いうちにマイホームを取得する若い世帯が増えているという内容です。

月々の返済額だけを見れば、超長期ローンやペアローンは無理なく組めるように見えます。ただ、これは裏を返すと、世帯収入いっぱいまでレバレッジをかけて資産を取得しているということでもあります。夫婦どちらかが病気やケガで働けなくなったり、収入が途絶えたりすれば、途端に返済が行き詰まる。余力を残さない買い方は、そのぶんリスクも大きいということです。

住宅の購入は、契約を終えた瞬間がゴールではありません。むしろそこから何十年と続く、長期的なプロジェクトの始まりです。若いうちに持ち家を取得すること自体は悪いことではありませんが、「買って終わり」ではなく「買ってからが本番」という認識を持てるかどうかが、結局は高齢期の住まいの安定にもつながっていくのだと思います。

 

まとめ

「賃貸は危険だから、持ち家一択」という単純な話ではありません。

そうではなく、高齢期の住まい選びでは「住み替えの自由」より「住み続けられる確実性」の価値が大きくなっていく、ということをお伝えしたかったのです。そしてその選択は、5年後の暮らしではなく、80代・90代までの20年、30年を見据えて考えるものだということも。

もし今、住まいの選択について迷っている、あるいはご両親やご自身の将来について考え始めている方がいらっしゃれば、「今後5年」ではなく「これから先の20年」という時間軸で、一度整理してみることをおすすめします。ご相談があれば、いつでもお気軽にお声がけください。